もはやスキーヤーでこの靭帯の名前を知らない人はいないのではないかというくらい,昨今のアルペンスキーでのケガの好発部位だと思います.近年はリハビリ等の医療技術の発展により,かなりの確率で復帰が可能になっていると思います.ただし,ケガはしない以上のことはありません.ケガをすると当然,多大な時間を消費します.近年,いくら選手年齢が伸びているといっても,どんなスポーツでも一生現役選手でいられるわけではありません.アスリートの寿命は非常に短い.そんな中で1年近くスキーができなくなるケガを負わないに越したことはありません.
術後の状況に個人差が大きいようです.復帰後も何の痛みもなくプレーできる選手もいれば,とにかく痛みと付き合い続けなければならなくなる選手もいると聞きます.これは決して手術の成功,失敗などではないと私は考えています.前十字靭帯再建術は,大雑把に言えば,脛と太ももの骨に穴を開けて,そこに自分の体の別な部位からとってきた腱を通して両端を骨に強力なホチキスでとめるだけです(術式はほかにもさまざまあります).寸分変わらず膝関節のかみ合いがもとに戻るわけではない,新しい膝のかみ合いを作る手術方法だと思います.新しい膝のかみ合いが自分の身体の対応範囲を超えてしまった場合に,どうしても痛みがでてしまうのではないかと思います.
膝が曲がって力が入ったときに,靭帯損傷のリスクが上がると思います.日本人選手の大半の,腰が低く膝を深く曲げて脚力を必要とする滑りは,前十字靭帯損傷のリスクが極めて高い滑り方です.たまたま,日本のコースは緩やかで短くてバーンも柔らかいから,そこまで多くケガが発生していないだけだと思います.腰高の滑りは膝の屈曲が浅く,靭帯損傷のリスクが下がります.もちろん絶対に靭帯を切らないわけではありませんが,腰高の滑りは速く滑られるだけではなく,ケガのリスクを下げるメリットもあると思います.
2018/11/01