日本式ターン

腰高の滑りに対して,ターン毎に脚を曲げ伸ばしして脚力でターンする方法を「日本式ターン」と呼ぶことにします.

日本式ターンのメリットは,短く平坦で雪質が柔らかい日本のレース環境に合ってることです.日本式ターンでは,ターン後半に脚力を使い,柔らかい雪でも荷重過多にならないように,巧みに脚力で荷重を調整してターンすることができます.また,日本のレース環境ではポールセットが直線的に立ちやすいため,直線的に滑ることがタイムを縮めるのに非常に有効です.日本式ターンでは,ターン前半にはほとんどターンせず直線的にゲートに入られるため,日本国内のレースでは,かなりタイムを縮めることができると思います.また,日本式ターンでは膝を支点にしてバランスを崩さず容易に深く角付けすることができます.膝での角付けは対応できる遠心力はかなり小さいですが,バランスをとることは容易です.日本の低速で柔らかい雪質の条件では,膝を支点とした角付けでも遠心力に負けずに滑ることが可能だと思います.日本式ターンはかなり脚力を消耗する滑り方ですが,短く平坦で柔らかい日本のレースコースでは,しっかりフィジカルを鍛え上げれば滑り切ることが可能だと思います.

日本式ターンのデメリットは何と言っても,ヨーロッパのレース環境に全く適合していないことだと思います.ヨーロッパの長く氷結した急斜面の多いコースでは,滑走速度が速く,ポールセットも振られていると思います.膝で角付けする日本式のターン方法では,対応できる遠心力が小さく,容易に板がずれてしまうと思います.また,毎ターンで脚力を消耗するので,どんなに高いフィジカルがあっても脚力を最後までもたないと思います.さらに,うねりや急斜面などの多いヨーロッパの難易度の高いバーンでは,ポールより上で方向付けを行うことが重要だと思います.しかし,日本式ターンでは原理上,ポールより上ではほとんど方向付けすることができず,難易度の高いヨーロッパのレース環境に合っていないと思います.

日本式ターンは腰高の滑り方にくらべ,ターンに必要な動作が多いです.しかも絶妙な力加減,タイミングが必要です.日本国内のレース環境は低速で時間に余裕があり,たくさんの動作を正確に行うことが可能だと思います.しかし,ヨーロッパの高速で難易度の高いバーンで,たくさんの動作を正確に絶妙なタイミングで繰り返すのはかなり難しいと思います.腰高の滑りはターンに必要な動作が少なくシンプルなため,ヨーロッパの難易度の高いバーンにも対応しやすいと思います.

日本式ターンは数多くの動作を絶妙のタイミングで行う必要があるので,常に大量に滑り込んで感覚を忘れないようにすることが重要だと思います.そのため技術キープに時間をとられ技術向上に取り組む時間をロスしやすいと思います.試合の連続するハイシーズンには目先のレースへの調整に追われ,技術向上に取り組む時間を確保しづらいと思います.また,ケガ等のアクシデントで滑り込み量が十分に確保できなかった場合にも,成績が急激に落ちやすいと思います.

日本式ターンは数多くの動作を絶妙のタイミングで行う必要があるので,常に最高の集中力で試合に臨む必要があると思います.それは当然のことなのですが,レースによっては,ケガの痛みを抱えながらのレースや,体調不良をおして出場するレースもあると思います.また,ビックレース等でどうしても緊張してしまうこともあるかもしれません.日本式ターンは不慮のアクシデント等で集中力を欠くとパフォーマンスが低下しやすく,安定した成績を残しづらいと思います.腰高の滑り方は,動作が簡単で少ないので,練習不足,コンディション不良,緊張などの様々なアクシデントでメンタル面に不安ンがあってもパフォーマンスが低下しづらく,安定した成績を残しやすいと思います.

日本式ターンはケガへのデメリットも大きいと思います.日本式ターンでは,膝を屈曲させた状態で脚に力を入れるため,ターンのたびに前十字靭帯にテンションがかかります.その状態から身体が後ろにひけると,靭帯に更に大きなテンションがかかり前十字靭帯が切れてしまうことがあると思います.腰高の滑り方は,膝の屈曲角度が浅く,脚にも基本的には力が入っていないので,普通にターンしている限りは前十字靭帯に特別なテンションはかかりません.

日本式ターンは,身体能力とスキーセンスを兼ね備えた天才にしか,本当に速く滑ることはできないターン方法だと思います.いくら日本のレースコースが短いからと言っても,毎ターン脚力を消耗する日本式ターンでは,脚力の強い選手でなければ速く滑ることができません.また,ターン前半は,内倒しないように身体を伸ばしながら外足をとらえ,それでいて内傾角を作っていく必要があります.この動作にはかなり高いバランス能力が必要だと思います.さらにターン後半には,荷重過多にならないよう,絶妙な雪面タッチで荷重が調整できる天才的なスキーセンスが必要だと思います.

日本アルペンスキー界の課題の一つとして,統一した技術メソッドが構築できていないことが前々より指摘されています.日本式ターンは天才だけが体現できるターン方法なので,メソッド化するには不向きだと思います.これまで技術メソッドを作りたくても作ることができなかったのはこのためだと思います.

2021/01/27